麻雀サイボーグ小林号のラッキープログラム RTDリーグ2018決勝最終日レポート

11/3(土) 16:00よりAbemaTV「麻雀チャンネル」にて放送された、RTDリーグ2018決勝2日目(最終日)の様子をお届けします。

レポートは、鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)がお送りします。


▼▼▼5回戦:「おさない・はしらない・しゃべらない」緊急時に冷静な瀬戸熊直樹▼▼▼

RTDリーグ2018もついに最終日。残り4回で優勝者が決まる。

最も厳しい位置で最終日を迎えたのは瀬戸熊だった。首位内川との点差が250ほどあるため、4回のうち3トップを取って展開次第。

しかし、瀬戸熊は、そんな緊急事態に陥っても絶対に慌てない。

オーラスを僅差のトップ目で迎えた瀬戸熊。トップ必須で迎えたこのオーラス、多くのプレイヤーは自分のアガリだけを見て一直線に突き進む。したがって、今引いたこのドラもツモ切りだ。

ところが、瀬戸熊は少考すると、9pを打っていった。

なんて悠長な。

これには、どんな状況になっても瀬戸熊直樹なんだな、と呆れもしたし、わくわくもした。

ふと、小学校のときの避難訓練で習った「おはし」という緊急時の鉄則を思い出す。

「押さない、走らない、しゃべらない」

とにかく落ち着いて普段の麻雀を貫き通す瀬戸熊の姿は、正に「おはし」を連想させ、それはアガリトップであっても変わらない。

すると、この發打たずがドラマを呼んだ。

このとき、小林が發のポンテンがかかるイーシャンテンだったのである。

おそらく發を打てば小林のトップだっただろう。

それをなんと、落ち着きと胆力だけで追い越し、瀬戸熊がアガってしまったのである。

しかも、放銃は首位の内川。

このトップラスにより、わずか1戦で100ポイント詰めてしまった。

過去に他のタイトル戦では3回で300差をまくって優勝した実績のある瀬戸熊。

あと150・・・やはり最終日にはこの男がやってきた。

これで優勝の行方は全くわからない。


▼▼▼6回戦:たろうの恐ろしい斬り込みも、マクロ視点の感覚で小林が首位に▼▼▼

小林がオヤでこのリーチ。何でもある捨て牌で、実に斬り込みにくい。

ところが、これで供託が3,000点になったため、たろうが仕掛けてゴリ押し。

無スジを切り飛ばして300・500とともに供託を回収した。

すると、またしても小林のリーチに対し・・・

たろうがチートイツのみのイーシャンテンから無スジの4pを押した。これは驚きの押しに見えるが、勝負所のたろうとしては珍しくない斬り込み。この手牌でアガリを取るなら白単騎であり、「ここで安全度の高い白を切るぐらいならオリたのと同義」という感覚だ。

白を切るぐらいなら1pや7pの切れ具合からヤマに残っていなさそうな4pより、7pや5pの切れ具合からヤマに残っていそうな6pを残して4pを1つ勝負しておく方がいい。とはいえ、この巡目でこの4pが押すギリギリラインで、おそらく次に引いた無スジでオリに回っていただろう。

ところが、直後にたろうが引いたのはテンパイとなる6p。

これでリーチまでたどり着き、内川から3,200を打ち取った。内川からすれば、こんなチートイツで白を残して押しているプレイヤーがいるなど想定外である。

こういった意志のこもったチートイツに比べると、南2局にアガった小林のチートイツは、ただ手が入っただけのラッキーに見えるだろうか。

小林は言う。「予選でもトップいっぱい取ったのに、実は観戦記で扱われた回数はものすごく少ないんだよね(笑)」。

しかし、小林はそれでいいとも思っている。

スタンドプレーは要らない。「自分の中での当たり前を当たり前にやる」という正確性で勝ってきたのだから。

ところが、その1本場で小林にしては珍しいスタンドプレーが出たように見えた。

オヤで仕掛けてタンヤオのみのテンパイを組んだところ、すぐにドラ表示牌の7pを引く。

前巡にフリテンに受けていればツモアガリだった牌で、いわゆる裏目だ。こういう牌を引いたとき、裏目だからといってノータイムでツモ切ってしまうプレイヤーが多いと感じる。

しかし、小林剛はこれを留めると、6pを打ってフリテンに受け直していった。

小林「こういう打牌で読みが鋭いと言われるのは困るんだよね。読みじゃないから」

実はこのとき、仕掛けていた内川・たろうともに7p受けが残ったイーシャンテンになっていたのだが、それが読めているわけではないと言うのだ。

小林「こういう状況ではドラ表示牌を抑えた方が得なことが多そうっていうだけ。特にたろうさんに危ないと思ってた。2人とも必要とまでは思わなかったけど、この7pは抑えた方が得だと思うんだよね」

例えば、手牌読みで「7p受けがある」と読むのがミクロ的なアプローチだとすれば、小林の麻雀は「他の色の789で仕掛けている人がいるときには表示牌の7pを打たない方が得」、「ピンズ以外を仕掛けているプレイヤーが2人いるときには表示牌の7pを打たない方が得」といったマクロ的なアプローチを採る。本源的な麻雀観としては、そうあるべきであると私も思う。

ただ、上位者同士の戦いになると、そこで差をつけるのが難しいため、麻雀プロはどうしてもミクロ視点の研究が必要になり、マクロとミクロのバランスを取るのが難しくなった結果、意外なミスをするときがある。

一方、小林はどこまでいってもマクロ視点で麻雀と向き合う。これは、大量の情報を処理するAIのようだ。感情があまり表に出ないことを指して「麻雀サイボーグ」と言われることが多い小林だが、このマクロ視点の感覚に寄っているところが最もサイボーグやコンピュータを連想させるところだと私は思っている。

結果は最高の1,000オール。ドラをツモったことについて、小林はいつも「ラッキーだった」と言う。

しかし、このラッキーは、仕掛けて間に合わせることができる者で、かつ7pを押さえる実力がある者だけが掴み取ることのできるラッキーである。

サイボーグ小林のラッキープログラムが作動し始め、ついにトータル首位に躍り出た。


▼▼▼7回戦:続・マクロ視点の男▼▼▼

東1局、オヤ番の小林は、最終手番で1枚切れの發を打たずにテンパイを取らなかった。發さえ通ればテンパイを組めるため、打つプレイヤーが多そうだ。

しかし、小林はテンパイを崩していく。聞けば、これもマクロ的な感覚だった。

小林「確かに發は(一般的に安全度が高いとされている)1枚切れなんだけど、(リーチ者2人ではない)たろうさんが1巡目に切ってるってだけなんだよね。1巡目からは鳴かないことも多いし、仮にそこで1枚だったとしても重ねようとする傾向がある2人(瀬戸熊・内川)のリーチなんだから、この1枚切れ發はどっちかが持ってることの方が多いんじゃないかな。逆に、この發が通るケースって、發がどうなってるとき?って思うよ」

実際には發が2枚とも王牌というレアケースだったが、この感覚は小林らしく、興味深い。

「この人は役牌を持っていそう」といったミクロの読みではなく、「組み合わせ上」の話として字牌を持っているケースが多いというマクロ視点の分析である。

そして、ブレにくいマクロ視点の思考を武器に、「当然のことを当然にやり続ける」のが小林の強さだ。

小林は言う。「麻雀はミスするゲーム。他の人がミスで10万点損するところを、おれは5万点に抑えようと思って打ってるよ」

東3局2本場、小林はチーして内川にハイテイを回した。これによって苦しくなったのは内川。

牌種が少なく、ずっとギリギリのところで相対的に安全度の高い牌を選んできた内川だったが、ハイテイ手番で本当に何もなくなった。

苦しんだ末に内川が打ち出したのは7mがワンチャンスで9m4枚切れの8m。

しかし、これがなんと形テンのたろうにハイテイドラ1の放銃となる。

この結果に対し、内川にハイテイを回した小林の鳴きを称賛する声が多かった。私も熱くなった1人なのだが、当の小林は鉄のように冷めていた。

小林「(トータル順位的に内川は)苦しめる対象なんだから、苦しめるためにチーするのは当たり前。こんな当たり前のことが話題になる理由がわからないんだよね。例えば他のRTDリーガーはもっと巧いことをやってるよ。この局面は、仮に(内川が)テンパイだったとしてもハイテイ回した方がいいぐらいにわかりやすい。ハイテイツモドラ1ぐらいならツモられてもいいし、それよりはハイテイでオリてくれることに期待した方が得だからね」

時代劇の主人公が、さりげなく困っている人を助けて全力でお礼を言われているところを想像してしまった。

「いえ、当然のことをしたまでです」

すみませんね。江戸には似つかわしくないですが、これはそういうセリフがプログラムされたロボなんです。同行している私は、そう言って町娘に愛想を振りまく。


すると、マンガンをツモって戦線復帰した次局、仕掛家小林にしては意外な手順が飛び出した。

あっさりドラを切ると、中を上家からポン。

何の変哲もないように見えるが、実は上家から中が出る直前にトイメンに1sを打たれているのである。

鳴きを多用する小林のスタイルからすると、この1s鳴かずが少し異質に映るというわけだ。

小林「この1s鳴かずも当然じゃない?せっかくドラを切って安く見えるようにしたのに、1sをポンしたら台無しでしょ。この1s鳴かずって他の人がやったらどう見えるのかって話。普通だと思うんだけど、おれがやったから驚かれただけで、当然の鳴かずだよ」

またである。

「いえ、当然のことをしたまでですから」

ええ、そうなんです、旦那。こいつはそういうロボでして。手を揉みながら私は旦那衆のご機嫌を取る。

そして、小林に言わせれば当然のスルーからの当然の鳴きで、当然のようにマンガンをアガって2着で終えて見せた。

トータル首位で、鋼鉄のお侍さん、いざ最終戦へ。


▼▼▼8回戦(最終戦):情熱で動くサイボーグ小林号のラッキープログラム▼▼▼

最終戦、小林以外の3人はトップ条件で、それぞれ小林との点差に条件がある。

西、南、中をポンしたたろうに対し、内川はタンヤオドラ2のテンパイから新ドラの東を掴んで迂回した。

すると、これがなんとトイトイサンアンコドラ5の4,000・8,000に化ける。本日なかなかアガリに恵まれなかった内川が、最終戦の大事な局面で望外の倍満をアガり切った。

これで、トータルで内川が小林に4,900差まで迫る。

さらに、小林から2,000直撃で小林をラスに落とし、(たろう・小林が同点3.5着のままでも内川が首位だったが)内川がトータルで首位に返り咲く。

すると、まだ優勝を諦めていない瀬戸熊にも一発ツモのマンガンが飛び出した。オヤかぶりしたものの、内川にとっては半荘2着目瀬戸熊と小林の点差が開くことは悪くない。

これは内川の優勝か。

南3局粘るたろうのオヤと、南4局小林のオヤさえ落とせば内川の優勝だ。

予選でマイナス300したところから優勝かよ。ドラマだな、ドラマ。

私の心は、若干内川に対する祝福の準備をし始めていたのかもしれない。

だからこそ、このあまりにあっけない幕切れを理解するのに時間がかかった。

小林が5巡目テンパイのダブ南チャンタを6巡目にたろうから出アガリして8,000。

小林が言うところの「ラッキー」だ。

この半荘の着順も上げ、小林がトータルで内川より6,900点上に立つと、オーラスは苦しいながらもオリ切り、優勝を決めた。

最後の最後、確かに決め手は運良く入った早いダブ南チャンタだろう。

これを見て、「小林はラッキーだった」と思われる方もいるかもしれない。確かに、小林本人も自身の麻雀を評して「早いマンガンが運よく入ったときにトップが取れる麻雀」と言うように、ラッキーな手が入るまでかわし続けて待つ麻雀だ。

逆に、「運も実力のうち」と評する方もいるかもしれない。

しかし、私はどちらも違うと思っている。

結果や実績は、確かに運で作られる部分もあるかもしれない。それが麻雀というゲームだ。

ただ、肝心の実力は、地道に積み上げていくしかないのである。

思い返せば、傍目には地味に見える積み重ねしかなかった。そんな22年の麻雀プロ人生だった。

光が当たらなくても、未来の活躍を信じて研究を続けた。

麻雀サイボーグ小林号が研究を続けられたのは、麻雀が好きだったから。

見てくれる人がいると信じていたから。

そんな麻雀に対する情熱を動力源に研究を続け、小林はあるプログラムを証明したように見える。

「実力ハ運デハ作ラレナイ」

麻雀サイボーグに書き込まれたラッキープログラムの正体は、地道に研究を積み重ねる、実に人間らしい信念であったと思うのである。


しかし、これだけ実力が認知されてなお、「優勝おめでとうございます!」と言えば、小林は必ずこう返すだろう。

「ありがとう」、という人間社会に溶け込むために必要な感謝の言葉ともに、一言・・・

「ラッキーでした」

照れくさそうに、麻雀プロ小林剛が笑った。

次のラッキーがきたときにそれを最大限に活かせるよう、今日も小林剛は地道に麻雀と向き合う。


鈴木聡一郎(最高位戦日本プロ麻雀協会)


▼▼▼執筆後記▼▼▼

3年間、RTDリーグを視聴いただき、またレポートを読んでいただきありがとうございました。レポーターの鈴木聡一郎です。

張プロデューサーからも発表されたように、RTD「リーグ」としては今年で終了となります。来年以降はRTD「トーナメント」をお楽しみください!

この3年間、麻雀界にとってはいろんなことがありました。私も観戦記者として、一生分ぐらいの本数を書かせていただきました。RTDリーグに育てていただいた観戦記者としての経験を、今後は色んな対局の観戦記に活かしていきたいです。後進の育成にも協力していきたいですね。

RTDリーグ2018としては、小林剛選手への優勝インタビューを現在執筆中です。それも後日アップされますのでお楽しみに!

3年間、本当にありがとうございました!

藤田晋 invitational RTDリーグ

トッププロを招聘した長期リーグ戦「藤田晋 invitational RTDリーグ」。BLACK・WHITEの2リーグ戦を経て、準決勝・決勝にて年間チャンピオンを決定。AbemaTV麻雀チャンネルにて独占放送中のオリジナル番組です。

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